定期通販の「縛りモデル」とCVR、LTVの考察

調査期間・担当

  • 調査期間:2020年8月3日(月)~2020年8月25日(火)
  • 担当者:マーケティング事業部 セールスパートナーDiv.  S.Y

研究動機

縁あって、筆者が物販系のアフィリエイトプログラム2種類(同一商品で縛りの有無で2種類)を担当することになったが、
アフィリエイターの提携申請数を見ると圧倒的に「縛り無」の方の人気が高い。
これは、「一般消費者が縛りの無い方を好むだろう=縛りの無い方が高CVRのプログラムである」とする媒体側の思い込みである。
一方で、広告主サイドの視点では「定期購入」の方が好ましいのは言うまでもないが。
媒体側と広告主側のこの認識の差は依然として根深い。

加えて筆者自身に「定期縛り施策」のメリットやデメリットに関して説明できていない節があることを認め、
本R&Dにて知見を深めるべく執筆する。

定期通販の「縛りモデル」とCVR、LTVの考察

そもそも「縛りモデル」とは、
『定期通販において定価よりも割安な価格で商品を提供する代わりに、顧客に対して一定期間の継続を約束させる』という販売モデルのことである。
定期通販における「縛りモデル」はEC事業者へ安定した収益をもたらした一方で、
購入者からのクレームを受けるという好ましくないトラブルが多発する結果をもたらす。

EC事業者(広告主)がこの「縛りモデル」で獲得した顧客は、
必ず商品を一定回数 継続購入することになるため、
1名の顧客獲得に対する利益が保証されていることになる。

初回価格の調整で顧客を一定期間つなぎ止めることでLTV(顧客生涯価値)といった数値における一定の成果はあるものの、
縛られることを好まない顧客とWin-Winの関係を築きにくいという問題が内在する。

EC事業者側のメリットはそれだけではなく、
『新規顧客獲得に必要な広告費に対し「粗利はいくら」といった収益の計算を容易にし、かつ、予測の再現性が高い』
といった、EC事業者にとっては願ってもない施策といえる。

しかし、近年この「縛りモデル」は消費者庁から問題視されているという。
新規顧客の獲得に多額の広告費をかけるEC事業者にとって願ってもないこの「縛りモデル」ではあるが、
トラブルが絶えず縛りモデルを改めて、縛り無の形態にて他の施策を駆使することで
たとえLTVが下がったとしても、結果的に売上げを確保する獲得の潮流が見られ始めている。

こちらに関しては後半にて紹介したい。
次項では広告費算出の為の指標となる「LTV」「CPA」に関して考察したい。

LTVの計算

一般的にLTVは “Life Time Value” の略語であり、顧客生涯価値を指す。
次の式にて算出するのが定説である。

【LTV=平均購買単価 × 平均購入頻度 × 平均購買期間】

しかし、こちらは正直言って分かりづらい面を多分に含んでいる。
そこでLTVを次の解釈で分析する

⑴ショップ全体のLTV
 =【総売上 / 購入人数】
⑵商材ごとのLTV
 =【{(初回価格×1ヵ月目購入件数)+(通常価格×2か月目の残存件数)+ … +(通常価格×11ヵ月目の残存価格)+(通常価格×12ヵ月目の残存件数)}/ 1ヵ月目の購入件数】

⑴に関しては単純計算で済むが
⑵に関しては初回価格と2回目以降の価格が異なる為、算出が複雑となる。
また、過去のLTVを求める場合は過去数値を使用すれば済むが、
シミュレーションといった将来の数字を算出する際には『業界平均リピート率』という概念が必要になってくる

例として以下条件時のLTVを算出してみる。
※単純化の為、「顧客一人が『1年間(=12か月間)』に1つの商材に対して支払った合計額」をLTVとして考えるため、
2ヵ月目、3ヵ月目で獲得した新規顧客に関しては計算から除外する。

・初回1,980円、2回目以降3,960円
・業界平均リピート率75%
・毎月1500人の新規顧客獲得を目指す
・毎月1つ商品を発送

こちらの条件を⑵の式に当てはめると下記のようになる。

LTV

しかし、上記の計算を⑴ショップ全体のLTVに則ってしてしまうとLTVの数値が異なってくる
2~12か月目に獲得した新規顧客の分も含めてしまうので、LTVがかなり低い値になってしまう。
(下図参照)

LTVLTV

限界CPAの計算

また、算出したLTVから限界CPAを求めることができる。
限界CPAとは「定期商材の新規顧客を獲得するのに出せる最大の金額」で
これを超すと赤字となってしまう。

限界CPAは次の式で求められる。

【限界CPA=LTV / 粗利率】

仮に粗利40%の商品にて、
上記で求めた「LTV:13,358円」と「誤算によるLTV:3,337円」を同様の計算式にて限界CPAを求めると
それぞれ「33,395(≒34,000)円」と「8,342円」となる。
これを基に最適CPA(成果報酬金額)が算出され、広告施策における指標となる。
この計算を誤ると、本来獲得単価が最大30,000円台が広告費として使えるにもかかわらず、
獲得単価8,000円以内でのプロモーションとなり いばらの道となる。

縛り無でも収益を確保する取り組み

前述のように縛りモデルは
顧客の理解のもとで販売されたものであれば問題はない一方で、
消費者庁のガイドラインにより事細かな販売条件の説明が義務付けられるようになった
これを受けて、昨今縛りモデルから脱却する事業者が現れ始めた。

これまでは、契約で顧客をつなぎ止めていたものを縛りをやめ、
顧客の自由意志で定期を継続することを促す取り組みが昨今話題となっている。

顧客は不自由な契約から解放され よりよい買い物ができるようになり、
EC事業者としても、問題になりやすいモデルから前進し、さらに進化を遂げようとしはじめている。
ここで「LTVの確保」と「粗利予測の再現性の高さ」がウリであった縛りモデルをやめることで、
ビジネスに、どのような影響を及ぼすか。が焦点と言える

そこで、縛りモデルから縛り無モデルへ転換した化粧品関連サイトの事例を元に
CPAとLTVの影響度合いを比較してみる。

以下、縛りの有無のグラフを並列して比較する。

縛り有_参考 縛り無_参考

初回価格…(縛り有)980円、(縛り無)2,980円
通常価格…(共通)5,980円

上図より、縛り有モデルから縛り無モデルへ転換によってLTVが下がることが見て取れる。
ここまでは広告主が想定していた縛り有のメリットが単純に失われたように思われる。

しかし一方で、グラフに表されている販売サイトでは
縛りを適切に明記していたことによってユーザーの購買障壁が高くなり、CVRの低下を招いた。
結果として縛り有モデルの場合、獲得CPAは高額となってしまう。

※リスティング広告における “コスト”と “CV数” を計算するとき
・コスト=クリック数×CPC
・CV数=クリック数×CVR
の単純計算にて算出される。
この時 獲得単価(CPA)は「コスト/CV数」である為、
分子と分母のクリック数を考慮から外してCPA=CPC / CVRという関係ができる。
(下図参照)

CPA

話を元に戻すと。
「縛りを明記したことによってCVRの低下が生じた」ということは
「CPA=CPC / CVR」の関係式における分母が単純に少なくなったので、CPAが高騰したことになる。

ここで逆に縛り無を一つのセールスポイントとして推すことで、
たとえ初回価格を3倍に値上げしても、獲得CPAを大幅に下げることに成功している点に着目したい。

仮にLTVが減少しても、獲得CPAを下げることで、結果的に帳尻がとれているとも考えられる。
最終的な利益が確保できれば、これもまたEC事業としての戦略の一つともいえるのではないだろうか。

考察

今回は「商品の価格設計や縛りの有無に伴うLTV、CPAの変動」を主眼に記述してきたが、
多くの営業活動の場面では「オファー価格は○○円で」というある種の『要望』から始まっている。

ここで、「その数字設定が果たして適切か」という前提から疑問を投げかけることで
広告費を捻出することを根拠に基づいて説明できるはずであると考える。

EC事業者に対して
「(業界平均)リピート率は幾らか?」
「利益率は幾らになるか?」
といったヒアリングを重ねて、適切な広告予算の提案、獲得への画を描くということを
筆者自身、今後の営業活動にて心掛けたい。と感じここに考察として記す。

参考

https://www.hideandseek.co.jp/archives/2742